番組内で読めなかったメールの中から、ピックアップして掲載します。
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かにみそ(東京都・男性)
「いまヤバい!人文・社会系」ということですと、Lifeでお馴染みの大澤聡さん、今年からいよいよ東京進出された福嶋亮大さん、独特の腐女子文体の『社会契約論』で話題になった重田園江さんなど多くの方のお名前が浮かんでくるわけですが、そんな中あえて今最もヤバい人として私が推したいのは、鈴木正朝さんをはじめとしたプライバシーフリークとその界隈の皆さんです(プライバシーフリークという名称は、某大手IT企業の役員が、鈴木さんたちを揶揄してそう呼んだことに由来してます)。
鈴木さんたちの活動は今年『ニッポンの個人情報』として上梓されております。ここでは彼らの主張内容の是非については申し上げませんが、注目したいのは、新経連や一部の官庁を中心とした規制緩和マンセーという空気に、学術的な積み上げと実務者の声の丁寧な吸い上げによって対抗論陣を張り、それによって現実を動かしていったという運動論についてです。
先般の集団自衛権をめぐっても実践されているように、日本的空気の支配に抗することができる有効な手段の一つが法的な正統性であり、それをベースに輿論を説得していくという手法を先取りしたのがこの一連のプライバシーフリークの運動だったと思います。鈴木さんの真骨頂は、twitter等でのdisり芸で、正直、象牙の塔の方とは思えないくらい辛口に主張を繰り広げられております。しかし、その主張のopenさ故に、何を重視し何を守るべく活動されているのかが明確で、その情熱に、利害や旧来のイデオロギーではない何かで実業界が説得されていくという現象は、日本では大変珍しい、人文社会系学問とビジネス界の幸福な関係の萌芽ではないかと注目しております。
ちなみに、鈴木さんは荻上チキさんのSession22に出演された時に、群馬県のことを「グンマー国」といつもの調子で言ってしまい、あとで炎上されるというネット文脈にどっぷり浸かった方ですw
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オリーブ熟女
みなさんこんばんは。「いまヤバイ!人文社会系」ということで、いま関西の「まちづくり」界隈でいちばんヤバい、社会学者の谷亮治さんという方をご紹介します。
自費出版本の『モテるまちづくり』は二刷目まで一瞬で完売し、いまは読書会ツアーでひっぱりだこ、全国津々浦々のコミュニティに招かれているようです。京都のなかで最もヤバい地区(左京区)で行われている自主ゼミでは、「まちづくりのマッドサイエンティスト」と称して毎回コスプレで講義されています。といっても奇抜なだけでなく、本の中身は「コミュニティ」や「公共財」がとてもクリアに論じられていて、ぼっちの多いLifeリスナーも読めば納得、私も毎回、首がちぎれるほどうなずきながら読んでいます。
「まちづくり」がブームになって久しいですが、実際は「もう疲れた!」という人も多いのではないでしょうか。『モテるまちづくり』の帯には、まさに「まちづくりに疲れた人へ。」とコピーがついており、いままで経験則に頼るしかなかったコミュニティ論の、新しい共通言語と成り得る本だと思います。
メジャーになってほしいような、ほしくないような、ヤバい魅力満載の谷亮治さんをおすすめします!
http://napoletano-kyoto.com/event/233/
pacocatさん、まえりさん、ご結婚おめでとうございます!お幸せに!
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星野貴彦 プレジデント社 プレジデント編集部
私は雑誌の編集者なので、日々、ノンフィクションの書き手のみなさんとご一緒します。そのなかで、最近、よく名前があがるのが堀川恵子さんです。
広島テレビの記者・ディレクターから、ノンフィクション作家に転身された方で、この数年、立て続けに話題の本をあらわしています。私が特に衝撃を受けたのは『教誨師』という著作です。教誨師とは、死刑囚のこころを落ち着かせるために選任される宗教者で、外部の人間として、唯一、死刑への関わりをもちます。かつて教誨師は、死刑の刑場に立ち入り、執行にも立ち会っていました。これまで死刑を取り上げた著作は数多くありますが、教誨師から話を聞くことができたのは、おそらく堀川さんだけです。
作品に登場する僧侶は、半世紀にわたり、誰よりも多くの死刑囚に向き合ってきた人です。堀川さんが、長年にわたり足しげく通いつづけた結果、僧侶は「自分の死後に出版」という条件で、少しずつ教誨師という仕事について話し始めます。本書の最後は「心からご冥福をお祈りします」という言葉で締めくくられます。堀川さんの真摯な取材ぶりと、誰にもいえないという教誨師の苦悩の深さに、圧倒されました。
地道な取材を重ねざるを得ないノンフィクションの執筆は、割の合わない仕事でもあり、新たに取り組もうという人は限られています。しかし、堀川さんのようなすさまじい書き手の仕事にふれると、「これはヤバい!」と興奮を覚え、このジャンルをより多くの人に知ってほしい、このジャンルを盛り上げたいと前向きな気持ちがわいてきます。「ヤバい」という感想しか出てこないような、卓越した仕事こそが、その分野を更新していくのではないでしょうか。
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大原
今読んでいる立命館大学産業社会学部教授 福田良明さんの「聖戦」の残像 知とメディアの歴史社会学(人文書院)がヤバイです。
著者はメディア史研究、歴史社会学の分野で精力的に戦争表象や戦争認識に関した論考を発表し続け、既に著名な方ですが、この本は彼の主要論文をまとめたもので、今の時代に認識すべき重要なものが一杯詰まっています。
帯のコメントです。
感涙の彼方にかすむ、
戦争のリアル
戦時と戦後は あの戦争に
何を読み込んだのか
夜中に起きて偶然、初めて聞かせて頂きました。58歳のただの勤め人です。高卒で学問には疎いですがお話面白いので、明日の仕事のことも忘れて今、お話伺っております。
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もっち 兵庫県西宮市
いま20歳の大学2年生です。私がLifeを聞き始めた理由は、高校時代まで遡ります。元々文学が好きで太宰とか三島とかを読みまくっている痛い高校生ではあったのですが、決定的だったのは、村上春樹の『世界の終りとハードボイルドワンダーランド』でした。現実世界と「世界の終り」を行き来しながら話は進んでいくわけですが、主人公の影がうんぬんとか一角獣が云々とか、そうかと思えば全部主人公の頭の中のできごとなのだ!とか。私の前になんだかヤバい世界が広がっていました。
そうして村上春樹にはまった私は、このハルキワールドを理解しようとネットで探し回り、そこで見つけたのが東浩紀でした。ハルキの想像力が「セカイ系」とつながっており、そこでは「僕と君の関係が世界に直結するのだ」みたいなよく分からないけどヤバい説明がCLANNADなどのアニメと接続されて行き、アニメと文学の想像力の謎の繋がりに、気づくと魅了されていました。
東浩紀を見つけるとそこからは早く、「現代の現代思想」というヤバい回のLIFEを聞きチャーリーにはまり、なんだこの何でも知ってる人は!という単純すぎる理由で、その人の師匠の宮台真司を読み始め、社会学を学ぼうと思い、大学まで引っ張ってしまいました。
そんなこんなで私は、東浩紀と鈴木謙介と宮台真司に感染したと言えると思います。311の際に、宮台真司は魔法少女まどかマギカのことを論じていましたが、文学から批評へ行き、社会学と出会ったと思ったら、そこでも文学と同じことが説明されていたという不思議な感覚を強く覚えています。
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ケチ組
Lifeの皆さんにはあまり知られていないと思いますが、私の場合は最近では仏教心理学者と言われるの岡野守也さんの本に影響受けています。
この人の本は大きくわけて二つの分野に関するものにわかれます。一つは実践的な心理療法である論理療法の本。もう一つは仏教心理学(哲学?)の唯識に関する本です。論理療法はほぼ認知療法と同じ考えと言っていいと思います。ストレスに合理的に対処するために物の見方のゆがみを変えてみることを提案しています。ストレスに対して非常に有効な対処法だと思います。
唯識の方は仏教的な思考法の神髄のようですが、ユング心理学、現象学、構造主義の考え方と共通するところが多いと思いました。唯識では外側の世界あるいは他人はすべて、私がそれをあるととかないとか思うことによって初めて成り立つと考えるとのこと。この考えは西洋の現象学に似ていると思いました。唯識ではすべてのものが果てしなくつながっていることが存在の本質。しかし私たちが「桜の花」といったらとたんに「花」だけあるように見えてしまう。これはやはり西洋の構造主義や記号論の考えに似ていると思いました。(丸山圭三郎も唯識に言及しているそうですね。)
唯識では阿頼耶識という心の領域を考えていいますが、これは岡野さんも言及しているとおり、西洋のユングの集合的無意識に似ています。岡野さんはは唯識は現代の理学を先取りするとともに、それを超えるところがあると考えており、フロイト、アドラー、ユング、トランスパーソナル心理学と唯識の習合を考えているようです。
岡野守也さんは仏教心理学者と言われていますが、実はキリスト教神学の勉強をし、牧師の経験のある人です。ある意味ヤバイですね。
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ヨコスカのヒロシ
私がヤバいと感じたのは、なんと言ってもLifeです。5年前、暇つぶしでPodcastを聴き(確か「Life白熱教室、これからの家族の話をしよう」だったと記憶しています。)、自分の周りでは聴くことのできない意見に新鮮な驚きを覚えました。自分が当たり前だと思っていたことをひっくり返されるようなダイナミックな視点こそが、文化系の醍醐味のように思えます。
一方、そうした話題を共有できる友人がなかなかおらず、陰が薄いという意味で文化系がヤバいと感じているのも事実です。
友人達も全くそうした話が嫌いということもなく、飲んだときに「こんな話があって...」と話すと結構興味を持って聴いてもらえることもあります。そうしたことから、最近は、結局、自分の知ってる文化系ヤバい話を発信する布教活動が大事なのかなと思っています。無理に自分の話を押し付けるのではなく、興味を持ってもらえそうな話をタイミングをみて投げてみて、文化系トークの素晴らしさを知ってもらうことが大事なのではないでしょうか。
ちなみにLife以外で最近、ヤバいと思ったのは、ジャレド・ダイヤモンドです。桁外れにスケールの大きな話に感動を覚えました。
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コロ助 27歳
私が考える「今ヤバい人文社会系」は、ずばり「マインドフルネス」です。
今年は高野山開創1200年や善光寺御開帳などもあってか、仏教界隈が盛り上がっている気がします。TVでも、ゴールデンで仏教の番組(ぶっちゃけ寺)が放送されてもいます。
そんな中、ここ数年で一気にブームになっているのが「マインドフルネス」です。仏教の瞑想の一つなのですが、つまるところ、「いま、ここ」に集中することで雑念を取り払い、苦悩からの解放を目指す、といったところでしょうか。
先月、『グーグルのマインドフルネス革命』という本も出版されており、企業の研修レベルで浸透し始めているとも言えます。ゼロ年代後半の「オーラの泉」や「エチカの鏡」といった"マイルドなスピリチュアリティ"的なものを経て、テン年代の半ばに来て、伝統仏教に回帰しているという流れがあるのではないでしょうか。
とはいえ、マインドフルネス的なものは半世紀前=60年代後半以降、カルフォルニアイデオロギーと結びつくことで今日まで一定のプレゼンスを持ってきたわけで、"古くて新しい"といった性格のものなのかもしれませんが。
最近私も日常生活の中で実践をしているのですが、これがなかなかどうして「いい感じ」なのです。近未来や近過去に対する雑念が消えて、「今この瞬間」に対する集中力がアップする気がしています。
このような「仏教的なもの」、もっとひろく言えば「精神世界的なもの」が、前世紀末の日本でオウム真理教事件として結実したという事実からみても、今回のテーマ「今ヤバい人文社会系」にわりとしっくりくると思っています。
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aki871
最近というか、人文社会系の本(というか電子書籍)は『劣化国家』ニーアル・ファーガソン〔著〕櫻井祐子〔訳〕です。帯に書いているのでヤバいのでしょう(苦)
内容としては、西洋の「定常状態」=停滞の原因を「法と制度」と仮定し現在の不況状況を大いなる衰退の一症状示していきます。
第4章の市民社会と非市民社会
"フェイスブックなどが生み出すソーシャルネットワークは、巨大だが非力だ。《略》 同じような考えを持つ人たちが、自分たちの好きなことについて、同じような意見を交換できる、膨大なツールだ。《略》 ただし、グーグルやフェイスブックが、アラブの春でどれほど決定的な役割を担ったかについては、意見の分かれるところだ★(なんといってもリビア人は、カダフィ大佐を友だちリストから外すだけではすまなかったのだから)。しかしオンラインコミュニティが伝統的な形態の団体にとって代わるとは、とても思えない。"
この章のまとめでは
"そして最後に、かつて活気に満ちていた西洋の市民社会が衰退状態にあること、またそれが科学技術ではなく、国家の過剰なうぬぼれによるものだと論じた。トクヴィルが、ヨーロッパ人とアメリカ人に先見の明をもって警告した脅威だ。わたしたち人間は、複雑な制度の格子のなかに暮らしている。そこには政府がある。市場がある。法律がある。そして市民社会がある。かつては──スコットランド啓蒙主義の時代には、といいたくなるのだが──この格子は驚くほどうまく機能していて、すべての制度が互いを補足し、補強し合っていた。これこそが18、19、20世紀の西洋の成功を支えたカギなのだ。だが現代の制度は、たがが外れてしまっている。"
"これからの時代に、諸制度を元の状態に戻し、大いなる衰退を覆すこと、そしてわたしがここまで過去の偉大な思想家たちの助けを借りてその正しさを裏づけようとしてきた、真に自由な社会の基本原則に立ち戻ることが、わたしたちの課題だ。"
ほぼ日本の事は触れていませんが、特に影響のない地方に住んでいると、東日本大震災後の行政側の動きは見えやすく、「ますます大きな社会」へ加速的に向かっているようにも見えます。
とはいえ、僕がこのようなわかる人にはわかりきった事、興味のない人には...「ヤバい!」と思えるようななったもの、あえていうなら「毒」「毒」の方がなんだったのか?と個人的な課題が残るテーマですね。
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矢野利裕
アメリカにホワイトヘッドというヤバい哲学者がいますが、そのホワイトヘッドの入門書を書いた中村昇先生が、「あとがき」に、「21世紀はホワイトヘッドの世紀になる。その気配がなかったら、何冊でもホワイトヘッドの本を書くつもりだ。容赦はしない。」と書いていて、ヤバいと思いました。
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かごとも
出版不況の折、新刊発売時のトークイベントが増えて、映画や美術館にいく頻度で楽しんでいます。
過去Lifeに出演者された方のトークイベントも、何度か足を運んでいますが、別格だったのが、BL評論家の金田淳子先生です。
会場のすべてを自分の磁場に引きずり込む語りの力のすさまじさ、他ではまずお目にかかることができない数々の忌まわしくもステキなスライド画像、宮台先生に匹敵するパワーを感じます。
今年満を持して、ゲンロンカフェでのトークイベントが書籍『オトコのカラダはキモチイイ』としてまとめられましたので、皆さんも、あの偉大な才能の無駄遣いさの片鱗を味わってみたらいかがでしょうか。
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倉津拓也(関西クラスタ)
私ががいま「ヤバい!」とお薦めしたい人文・社会系の人物は、予告編でも名前が出ていましたが、安保法制をめぐって渦中の人、憲法学者の長谷部恭男さんです。
最初に長谷部さんの名前を知ったのは、宮台真司さんと宮崎哲弥さんの対談『M2』に掲載されていた、宮台さんによるブックガイドでした。当時私は宮台さんに感染しており、基本的に宮台さんが言及した本は全て目を通すという読書生活を送っていたのですが、その中でも長谷部さんの文章は際立っていました。
従来の憲法学の領域に留まらない横断性もさることながら、従来の憲法学の枠内においても微に入り細にわたる様々な論争を展開し、その全てに連戦連勝。そんな長谷部さんのファンは、ネットでは「ハセビアン」とも称されています。
例えば「憲法学から見た生命倫理」という論文。立憲主義とは比較不能な価値を有する人々が共存していくためのプロジェクトであり、そこでは理性的な討議と決定のプロセスに参加しようとする個人が想定されている、とされます。
ここまでは穏当なのですが、ここから「そのためには、少なくとも「機能する脳」が必要である」と始まり、「脳の欠如したヒト・クローンを作成してその臓器を利用することは憲法でいう個人の尊重に反しない」と展開していきます。
また長谷部さんはそんな「ヤバイ!」話をするとはどういうことか、という問いに対しても「学問の自由と責務ーレオ・シュトラウスの「書く技法」に関する覚書」という論文で考察します。古来の哲学者の多くは、学問の自由が十分に保障されない環境に置かれており、そこでは権力者や多数派からの迫害を避けるために「分かる人には分かる」技法が縦横に駆使されていました。「哲学者は、不完全な政体の下で、理想の政体を目指しつつ、その私的活動を通じて密かに若者を誘惑し続ける」と書く長谷部さんの実践がそこに重ね合わされている、と読むのはとても自然なことのように思います。
今回の安保法制を巡る議論、または昨年の秘密保護法を巡る議論をきっかけにして長谷部さんの名前を知った方には、ぜひ長谷部さんの著作や論文にも手を伸ばしてほしいと思います。
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ウェルダン穂積
私、エーリッヒフロムの「愛するということ」、に感銘受けまして、愛には未熟な段階と成熟の段階がある!とキッパリ言ってくれたことに、ヤバイな!と思いました。絶対的とまでは言わないまでも多様な愛に基準の線があることを明示したのはある意味、勇気のいることだと思います。
それから派生させて欲求五段階説のマズローの本に興味を持ち、マズローが晩年に達した未完の理論があると知り、思い切って専門書を買いました。その本が、「完全なる人間:魂のめざすもの」(タイトルヤバイ)です!非aはaではない、という三千年来の間違いをもう越えなくてはならない、ということで、人間には絶対的、健康的な価値感があるのではないか、と書かれておりました。
この手の内容を説明するときにはどうしても陳腐になりがちで、慎重に理論を浮き彫りにするような記述なのでなんとも伝えにくいですが、多分愛、あれも愛、結果的に愛、ではなく、愛はあり、人は人生を進めながら自己実現を持って成熟させていくことができる、という指針として大事なものだと思います。
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淑女見習い
27日の土曜日に池袋で行われた速水さんの対談を受講しました。
速水健朗の大人の学校シリーズ、知の匠と見渡すこれからの日本 原武史×速水健朗「ポピュラーな政治思想の提言」~日常生活を通して政治思想を考える~
政治に関する講座を受講したのは初めてで、自分の勉強不足で回りの方々の2割りくらいしか理解できなかったと思いますが、お二人が今、興味を持っている話題についてみっちり2時間お聞きできたのはとてもいい経験になりました。ノートはしっかり取ったのでわからなかった単語を調べ、お二人の思想に触れてみたいと思います。
ところで、お二人の対談はもちろんヤバかったです。電波に乗せられないピーピー系のヤバさでした。対談の内容としては「天皇制と鉄道と中央集権」についての歴史や思惑や架空の独立論でした。じきに速水さんが本を出版するそうなので今回受講できなかった方はそちらを読みましょう。
原武史さんの書庫のような豊富な知識の中から時々溢れ出るおまけのお話がすごく面白かったです。もちろんこちらもヤバかったです。
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ホライズン
最近読んだなかでヤバかった人文社会系の本といえば、みすず書房からこの4月に出版された『不健康は悪なのかー健康をモラル化する世界ー』 です。
本文をご紹介すると「アルコールをドラッグとしてスティグマ化することは、香水であるシャネルNo.5を化学薬品と呼ぶようなものである」とか、「今日、私たちは快楽のために食べるのではなく、私たちの数値を減らすために食べるのだ」など。これはライ○ップのことじゃないか!と笑いました。
本著のテーマは、夭折の作家、伊藤計劃の『ハーモニー』でも提示されています。折しもこの秋に伊藤作品3作が劇場アニメ映画化されます、めろん先生めっちゃ楽しみですね!
イデオロギーの相対化話は人文・社会系の魅力の一つですね。『不健康は悪なのか』は社会学系の人が書き、そして医療系の専門家も書いています。スティーブ・ジョブスはアップル社を「リベラルアーツとテクノロジーの交差点に立つ」と言いました。
人文・社会系の視点で、医療やテクノロジーなどのイデオロギーをヤバい切り口でぶった切る!Lifeのヤバイ化を楽しみに、これからも応援しております。
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でんりゅう 福島県 24歳
私が最近読んでヤバいと感じた本は荻上チキ氏、飯田泰之氏共著の「夜の経済学」です。
確かLifeの番組中に紹介されたのがきっかけでこの本を知りました。黒塗りに、桃に挟まった招き猫が描かれた表紙は下ネタの本かとも思わせる見た目ですが、中身は経済学の本です。それも、フーゾクやワリキリなどをキーワードにした緻密で地道な調査をもとにした面白い内容です。
なにがヤバいのかはチキ氏の知己の友の方に語っていただくとして、この本の読後感としてある「一面の雑草畑に定規で一本の線を引いてくれる感覚」をあたえられるのはやっぱりヤバいと思います。というか、摩擦のない無限平面ではなく、一面の雑草畑にいきなり定規で線を引くこの感覚が人文社会系の醍醐味じゃないかと思うんですよね。
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メランク(32歳/男)
地域でそこそこの進学校に通っていた私は、「大学に行くのだ!」という結論ありきで学部にこだわりもなく進路を決めてゆく周りの友人たちにものすごく違和感がありました。経済学だとか法学だとかまったく興味なかったし、そんなわけのわからない学部の授業を受けている自分がまったく想像できませんでした。
それでも「オレはオレだぜ」と大学進学などせずに別な道を選ぶほどの行動力も「これだ!」という明確な目標もなかった私は、ポール・オースターというアメリカの作家に出会い、おもしろいんだけど何でこんな小説を書くの?という素朴な疑問を持ち、それについての答えがわかるのならぜひ知りたいと思い、文学部に進む決意をしました。
そんな私にとって一番「ヤバイ」存在はオースターの翻訳者である柴田元幸さんです。
ちょうどそのころからオースターの他にミルハウザー、ダイベック、レベッカ・ブラウンなどの翻訳者であると同時に現代アメリカ文学の紹介者として頭角を現してきた柴田先生は、それまで影にしか存在しえなかった翻訳者という職業を面に顕在化させ、今活躍する多くの若手日本人作家にも影響を与えてきました。作家の名前ではなく、翻訳者の名前で本を選ぶという文学青年の出現は画期的で、時を同じくして村上春樹が満を持してサリンジャーやフィッツジェラルドの翻訳に着手したことと並んで、米文学の地位向上に相当貢献したのではないでしょうか。
今も文学翻訳者の先頭に立って弛まず翻訳業を続ける傍ら、文芸誌monkey の編集、日本翻訳大賞の選考委員なども勤めるなど、精力的に活躍を続けています。monkeyは毎号内容の濃さにホントにやばいなぁ~と思いながら愛読していますが、高野文子や小沢健二、内田樹や岡田利規など別のフィールドで活躍する人々をも巻き込む懐の深さも痺れます。
おそらく今後も彼に影響を受けた作家、翻訳家が続々と世に出てくることでしょう。
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れいき 埼玉県 20歳
いままでのLifeの放送でヤバいと思った瞬間を3つ選びました。
一つ目は現代の現代思想をテーマにしたときです。放送中盤で政治について東さんが次のように話されていました。「自分の立場をかっこ入りする力っていうのが政治とか思想の力なんですよ。ところがこの国にはそれがない。だから中昌さんもアーレントを読み直すんだとか本でいっているわけですよ。まあ宮台さんとかもそう思ってるよね。でもぼくが宮台さんや中昌さんとちょっと違うのは、ぼくは比較的彼らより絶望が深くて、もうどうせ人間はそこにいかない。人間は私的利害しか言わないのでかつてアーレントが夢見たポリスのような空間はグーグルしかないというのがぼくの考え。」
※2009/05/24「現代の現代思想」(東浩紀ほか)
http://www.tbsradio.jp/life/20090524/
次にヤバかったのは家族をテーマにしたときです。放送序盤でウルトラ兄弟のメールが読まれたのをきっかけに宇野常寛さんが特ヲタトークをはじめました。そこからのチャーリーさんと宇野さんとのやりとりが次のように続きます。
鈴木 「俺の父ちゃんすごいんだからな」的なものがなくなっちゃうと・・・
鈴木宇野 エヴァンゲリオンになっちゃうんですよ
鈴木 じゃあ一曲はさんでそっちの話に
宇野 あの一曲はさむ前にちょっとだけしゃべっていいですか?
鈴木 じゃあいいよ。もうお前しゃべれよ!
宇野 エヴァンゲリオンっていうのはウルトラマンが死んだって話ですからね。でもそれでも世の中終わらないわけですよ。ほらそこでだいたい勘の良い人はわかったと思うんですけど、ゼロ年代っていうのは仮面ライダーの時代なんですよ。
※2010/09/26「新・家族の条件」(宇野常寛、古市憲寿ほか)
http://www.tbsradio.jp/life/20100926/
三つめは2011年文化系大忘年会で「未知との遭遇」を出されたばかりの佐々木さんが登場した時です。最強の運命論について次のようにおっしゃていました。
「僕の最強の運命論はとんでもっていわれても仕方ないんですけどこの世のすべての出来事は因果性ぬきに全部決まってる。過去も現在も未来も決まってる。だが起きるまではわからない。なので起きたことはすべて起きるべくして起きたことと考えるしかないよね。だから普通に考えたらそこで自由意志なんてないじゃんっていうのがよくあるパターンなんだけど、だけどだからこそ自由意志を発動できるんですよっていう理屈を書いた本なんです。」
※2011/12/25「文化系大忘年会2011」
http://www.tbsradio.jp/life/201112252011/
三つとも一回聞いただけでは理解できなかったけれどもそのヤバさに惹かれ数十回繰り返し聞いたところです。