番組で読めなかったメールからいくつかピックアップして掲載します。
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ジーニー 男 20歳 大学2年生
こんばんは、高校のころから聞いていたんですけれど、
初めてメールします。20歳の大学生です。
先日、生まれて初めてデモに行きました。官邸前のデモです。
友達がいっしょに行こう、と言うのでいっしょに行きました。
その日は本当に暑くて、二人で汗だくになりながら、
今年最初の蝉の鳴き声が聞こえて、何年かあとに夏の記憶として
思い出すんだろうなぁと言い合いました。
そのうち、中心部に近づき、いろんな言葉が耳に入るようになりました。
警察の方に誘導されつつ歩き続けていて、「こっちは行き止まりだから
左へ行ってください!」と言われているところを、他の人といっしょに
右へ行きました。すれ違う人が小さな声で「再稼働反対」と呟いている
のが聞こえました。
ぼくと友達はiPhoneで写真を撮りながら、デモの中心にどんどん
入って行きました。声がものすごい勢いで反響していて、ぼくは進み
ながらジャムの匂いがしたから友達に「ジャムの匂いがする」と
言いました。友達は「そうだね」と言いました。
隣の人が声をからしながら「再稼働反対!」と叫んでいました。
ぼくは「本当にデモで叫んでたら変わるのかな」という疑問がどうしても
あったので、結局は最初から最後までなにも原発関係のことを口にせず、
最後の拍手もしなかったのですが、だんだんと同じように声をあげたり、
拍手をしたりしたくなってしまいました。
友達を見ると、ぼくと同じように黙って立ち、目を瞑っていました。
だからぼくも黙ったままだったのですが、そのあいだも体がどんどん
注射で他の人の声を注入されて肥大化していくような、それでいながら
ジャムの匂いを言葉にする自分も感じるという、今まで体験したことの
ない感覚にありました。
きっとぼくが言った「ジャムの匂いがするね」という言葉を、
他の知らない人が聞いて、「なんだこいつ」って思ったんだろうな、
と思うと、ぼくが別の人間に見られながらぼく以外の人と同じ場所に
いることを強く感じました。
終わったあと、地下鉄に乗りながら、地下鉄に乗っている知らない人たち
の体がいつもよりもはっきり見られるようになっていて、そのことを友達
に言うと、「目を瞑ってたらすごく声が大きくなった」と言っていました。
ぼく以外の人がこの世界にたくさんいるんだな、ということが肉体として
実感できたような気がしました。
これからデモに参加し続けるかはわかりませんが、20歳の夏に友達と
汗だくになりながら行った官邸前での感覚を、たぶんずっと忘れないし、
もう以前までとは同じであれないんだなと思えただけで、行ってよかった
と思いました。一つの意見に絞られた場というより、バラバラの自分たち
を強く感じられた、ということです。様々な人に感謝しました。
※ちょっと古川日出男さんの『サマーバケーションEP』を思い出しました(黒幕)
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ねじまきゼット 30歳男 福祉職 長野県上田市
仕事柄、対人援助や介助、支援というマンツーマンから1対少人数という
枠組みで仕事をしていることもあってか、なかなか10万人という規模で
考えることにリアルな感覚がありません。
ただもし10万人で何かするというときは何かしらのモチベーションに
なるものが必要なのだということは理解できます。
例えば、数が出ることで結果が見える寄付みたいな行為もそうかも
しれません。クリック募金のようにネットでリアルタイムに寄付の結果
が反映されるサイトがあります。個人的な関心と社会問題に対する具体的
な解決に向けた取り組みがクリア繋がっているように感じるからこそ、
無料でワンクリックするだけという理由以外にも続けるモチベーション
になっている気がします。
10万人が参加しメディアがその効果や結果を可視化しやすくすることで
ある種の実感ややりがいが伴い、個人的なモチベーションと社会問題が
色んな複雑さを飛び越えることで繋がる。それは確かに「使い方次第」と
言えるのだと思いますが、現在の動員の仕組みとして、ネットのメディア
がとても「わかりやすく」参加を促しているように感じます。
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鳥山穣 33歳 会社員 Life初代ディレクター
ラジオから人事異動でテレビの政治部にうつり、
首相官邸の中や外で仕事をしながら、毎週集まった人の声を聞いています。
記者たちと話している中で6月始めごろは
「きょうたくさん集まるらしいよ」とか話していたのが、週をおって
増え続ける中で、実際に講義の声がどれくらい聞こえるのか確かめたり、
総理はじめ政治家への質問項目に交えたりと変化は生じています。
もちろん記者の中にも好意的な人、そうでない人、距離感を掴みかねて
いる人、そして取材する人とバラバラですが、共通しているように
見えるのは「よくわからない、うまく説明できない何かがきている」
という認識かもしれません。
それは抗議行動の参加者が熱い人から軽い人、Z会(塾ではありません)
からプロ市民まで混じっているのと同じです。
ふだん、官邸周辺は主に政治家、役人、マスコミ関係者が生息している
エリアですが、いままでになかったような外からの空気に明らかに
戸惑っているというのははっきりしている気がします。
いいかえれば「何だかぞわぞわしている」といった状況でしょうか。
しかし、開沼博さんが週プレで指摘したように「燃料」が尽きれば
減衰して行く可能性は見えますし、そもそも警察の組織的な対応は
相当気合が入っており当日の昼から柵を作ったりと周到な準備も
しています。
自民党の河野太郎議員はDigに出演したときに
「デモをした後は議員会館に陳情へ行ったほうが効果がある」と
話していましたが、金曜の夜は議員が地元に帰るため、もう新幹線に
のっているかもしれません。
一連の動きの中で私が感じたのは「ちょっといってみようかな」
という思いで参加する人が増えたということ。
過去の社会運動が「俺もやるぞ!」という強い使命感に端を発し、
結果として凄惨な殺し合いに至ったことを考えれば大変平和な意思表示です。
この次になにがあるのか、誰かが何かを発明するのか、大変興味があります。
ひとつ指摘しておきたいのは、今回集まった人々が取り囲んでいるのは
国会議事堂でも議員会館でももちろん首相官邸でもなく、記者会館のある
ブロックです。警察の努力の結果、ということですがこれは大変シュール
なことです。
もちろんマスゴミへの嫌悪感から、異議申し立ての相手として記者会館を
取り囲むかどうかは自由ですが、マスコミはツールとして利用したほうが
便利かもしれません。マスコミが信用できないのならば、抗議行動に参加
した方、見に行った方はそれを文字にしてウェブで公開することをお勧め
します。
そして、8時に終わった後には赤坂の町まで降りていってビールなど
酌み交わしながら反省会や次回への打ち合わせ、情報交換などするのは
いかがでしょうか。友達や運命の出会いもあるかも知れません。
赤坂の町から大手企業が撤退していくなか、数万人の参加者は町おこし
にもぴったりです。抗議行動のヘッドクウォーターとして赤坂の飲食店
を利用することは、町内会で活動する私にとっても大変ありがたい話です。
サカスに2時間で数万人はなかなか集まりませんが、
こちらは自主的に集まっている。すごい話です。
ちょっと脱線したのでお便りのテーマについて。
10万人集まれば何をするか。ラジオ制作者としては毎週10万人の
アンケート結果を発表する番組をつくりたいとかそういう思いですが、
10万人いれば選挙区によっては小選挙区で衆議院議員ひとりを勝たせる
ことができます。10万人ってそういう数字です。
まあ政治に期待しないから10万人集まっているんだと思いますが。